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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)446号 判決

本店所在地

東京都千代田区永田町二丁目一〇番二号

株式会社サン・ライプ社

(右代表者代表取締役 小川武)

本籍

東京都千代田区九段北二丁目四番地

住所

同都同区麹町一丁目一二番地九

麹町パークマンション六〇二号

会社役員

小川武

昭和六年九月一七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社サン・ライプ社を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人小川武を懲役一年六月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社サン・ライプ社(昭和六〇年五月二〇日以前の商号は新琉球実業株式会社)は、東京都千代田区永田町二丁目一〇番二号(昭和六〇年一月一四日以前は沖縄県那覇市久茂地二丁目四番地の二一、同五九年五月三〇日以前は東京都千代田区永田町二丁目一〇番二号、同五八年一月七日以前は同都千代田区麹町一丁目一二番地九、同五七年一一月三〇日以前は同都千代田区永田町二丁目一三番八号、同五六年六月一日以前は同都港区高輪三丁目二三番一四号)に本店を置き、医薬品・健康食品・食料品の製造・販売等(昭和六〇年五月二〇日以前は不動産の売買及びその仲介等)を目的とする資本金六一〇〇万円(昭和五七年五月一八日以前は一五二五万円)の株式会社であり、被告人小川武は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人小川は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産の取引及びその収支を明らかにする帳簿を作成せず、かつ、売上金を他の法人名義の預金口座に入金するなどしてその所得を秘匿したうえ

第一  昭和五六年五月一日から同五七年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億三三〇一万三七〇九円で、課税土地譲渡利益金額が三億三二六七万七〇〇〇円あった(別紙一の(1)修正損益計算書、別紙二の(1)ほ脱税額計算書各参照)のにかかわらず、同会社の法人税の納付期限である昭和五七年六月三〇日までに東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在所轄麹町税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額二億〇五四四万〇八〇〇円(別紙二の(1)ほ脱額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年五月一日から同五八年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億〇七五七万七四九四円で、課税土地譲渡利益金額が四億二四五二万五〇〇〇円あった(別紙一の(2)修正損益計算書、別紙二の(2)ほ脱税額計算書参照)のにかかわらず、同会社の法人税の納付期限である昭和五八年六月三〇日までに前記税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額二億五五一二万七三〇〇円(別紙二の(2)ほ脱額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

1  当公判廷における供述

2  大蔵事務官(二通)、検察官(四通)に対する各供述調書

一  尚裕、尚啓子の検察官に対する供述調書各一通

一  護得久静子、神山峻於、嵩原安勝(二通)、小川シゲの大蔵事務官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の左記調査書

1  売上高調査書

2  地代収入調査書

3  期首商品棚卸高調査書

4  仕入高調査書

5  期末商品棚卸高調査書

6  役員報酬調査書

7  賃借料調査書

8  水道光熱費調査書

9  旅費交通費調査書

10  通信費調査書

11  支払手数料調査書

12  燃料費調査書

13  修善費調査書

14  交際費調査書

15  租税公課調査書

16  登記諸費用調査書

17  保険料調査書

18  顧問料調査書

19  雑費調査書

20  受取利息調査書

21  雑収入調査書

22  支払利息調査書

23  雑損失調査書(判示第二の事実)

24  交際費損金不算入調査書

25  事業税認定損調査書(判示第二の事実)

26  普通預金調査書

27  当座預金調査書

28  定期預金調査書

29  通知預金調査書(判事第二の事実)

30  土地調査書

31  建物調査書

32  ハワイ勘定調査書(判示第二の事実)

33  土地譲渡税額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書四通(検甲26号、35号、43号、検乙7号)

(法令の適用)

被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内において被告会社を罰金一億二〇〇〇万円に処する。

被告人小川の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人小川を懲役一年六月に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、昭和六〇年五月二〇日以前には新琉球実業株式会社の商号で不動産売買等を目的としていた被告会社の代表取締役である被告人小川が、判示のとおり、被告会社の業務に関し、不動産の取引及びその収支を明らかにする帳簿を作成せず、また、売上金を他の法人名義の預金口座に入金するなどしてその所得を秘匿し、被告会社の二事業年度分合計四億六〇五六万円余の法人税を免れたという事案であって、その犯行の動機、経緯、態様、結果、罪質等、特に、本件におけるほ脱額は巨額であり、税ほ脱率も偽りその他不正の行為を弄した無申告事犯で一〇〇パーセントと高率であることに加え、被告人は、尚啓子から昭和五五年一〇月ころ尚裕ら同家の負債等を整理したいとの相談を受けたのを奇貨として、尚裕ら所有の不動産を被告会社が一たん買取り、これを他に転売して被告会社はもとより、被告人自らが経営者となっていわゆる休眠会社の事業資金等を得ようと考え、以後右不動産を大半の仕入価格一平方メートル当たり一万四〇〇〇円で被告会社が購入し、順次これを高額で他に売却して多額の利益を得ながら判示のごとくこれを秘匿し、無申告のままに本件犯行に及んだもので、被告人には納税意欲は窺われず、その犯行動機は結局自己の金銭的欲求を満たすためであって、そこには特段酌むべきところはなく、しかも、被告人は、右不動産の仕入及び売上関係の帳簿の記載はもちろん、会計帳簿を備えることすらせずに本件所得を前記休眠会社名義を利用して預金したり、ハワイに送金したりなどし、また、昭和五八年には那覇税務署から取得不動産の購入価格等につき文書で質問を受けた際、購入資金は他からの借入金で賄った旨虚偽の回答をするなどしていたもので、その脱税の手段・態様も計画的、かつ、大胆であることに、この種事犯の罪質を併せ考えると、犯情は悪質であり、被告会社及び被告人の刑責は非常に重大である。

なお、弁護人は、被告人の〈1〉会計帳簿を備えなかった、〈2〉関連会社名義による預金、〈3〉ハワイへの金銭持出し、〈4〉本店所在地の移転、〈5〉虚偽回答書の作成等の行為は被告会社らの脱税意図が希薄であることの証左である旨主張し、被告人も当公判廷において、右弁護人の主張に沿う弁明をしているが、所論指摘の各所為が本件脱税を意識してなされたものであることは被告人自身捜査段階において認めており、右各行為自体並びに関係証拠によって認められる被告人自身の過去の所得税の申告・納入状況等に照らすと、被告人の右捜査段階における供述は充分信用することができるというべきであり、被告人の当公判廷における弁解はそのまま首肯するわけにはいかず、従って、被告人の右〈1〉、〈2〉、〈3〉、〈5〉等の行為が被告会社の所得秘匿の手段としてなされたことは明らかである。たしかに、弁護人の指摘する点を個々的にみればそれが被告人の会計知識の不足や被告会社に経理事務員がいなかったとの事情もあったからとか、〈4〉の多数回にわたる本店所在地の移転についてもそれがすべて本件脱税の為のみの目的でなされたとは断定しがたい面もあるとか、右〈2〉についてはそれが架空の会社名を利用したものでない点を強調すれば極めて功妙であると断定できないことは弁護人の指摘するとおりであるが、被告人が代表者となっているとはいえ、別会社名義を利用することにより被告会社の所得を把握されにくくするための手段を用いたことには変わりはなく、従って、被告人の右金銭秘匿の方法が直ちに被告人の脱税意図が希薄であることの根拠になるなどということはできないというべきである。

なるほど、被告人は、尚裕ら所得にかかる不動産の購入代金の支払にかえ、右不動産の売却代金等をもって尚裕らの負債の返済をしたこと、被告会社においては、本件発覚後、その非を認め、昭和五七年四月期から昭和五九年四月期までの同社の確定申告をし、本件起訴年度分の本税・重加算税等合計七億一八五〇万円余を納入したこと、経理事務等を改善して再過なきことを誓っていること、被告人の経歴、家庭の事情等被告人及び被告会社のために有利な又は同情すべき諸事情も認められるが、これらを充分斟酌しても、前記本件の重大性に鑑みると、本件は、被告人小川の刑の執行を猶予すべき事案とは認められず、右情状を総合勘案し、被告会社及び被告人に対しては主文掲記の各刑を量定するのはやむを得ないところであると思料した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金一億五〇〇〇万円、被告人につき懲役二年六月)

検察官 井上經敏、弁護人 栃木義宏各出席

(裁判官 中野久利)

別紙一の(1) 修正損益計算書

新琉球実業株式会社

自 昭和56年5月1日

至 昭和57年4月30日

〈省略〉

別紙一の(2) 修正損益計算書

新琉球実業株式会社

自 昭和57年5月1日

至 昭和58年4月30日

〈省略〉

別紙二 ほ脱税額計算書

新琉球実業株式会社

(1) 自 昭和56年5月1日

至 昭和57年4月30日

〈省略〉

(2) 自 昭和57年5月1日

至 昭和58年4月30日

〈省略〉

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